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LLMの種類と特徴:GPT、BERT、T5の違い

2025年7月9日
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「ChatGPTは知っているけど、BERTやT5って何?」「どのLLMを使えば自分の目的に合うの?」そんな疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。実は、LLMには様々な種類があり、それぞれ異なる特徴と得意分野を持っています。この記事では、代表的なLLMの特徴と使い分けについて、具体例とともに分かりやすく解説します。

LLMの分類と基本的な違い

はじめに、LLMがどのように分類されるのかについて紹介します。

設計思想による分類

LLMは 設計思想 によって大きく3つのタイプに分類されます:

1. 文章生成型(Generative)

  • 目的: 新しい文章を作り出すことに特化
  • 代表例: GPTシリーズ(ChatGPT)
  • 得意分野: 創作、対話、文章作成

2. 文章理解型(Discriminative)

  • 目的: 既存の文章を理解・分析することに特化
  • 代表例: BERTシリーズ
  • 得意分野: 文章分類、感情分析、質問応答

3. 統合型(Unified)

  • 目的: 生成と理解の両方を一つのモデルで実現
  • 代表例: T5、GLM
  • 得意分野: 翻訳、要約、多様なタスク

たとえば、「小説を書いて」というタスクは文章生成型が得意で、「この文章の感情を分析して」というタスクは文章理解型が得意です。

要するに、LLMは「何を重視して設計されたか」によって、異なる能力を持っているのです。

学習方法による違い

LLMは 学習方法 によっても特徴が異なります:

自己回帰型(Autoregressive)

  • 前の単語から次の単語を予測する方式
  • 文章生成が得意
  • GPTシリーズが代表例

マスク型(Masked)

  • 文章の一部を隠して、その部分を予測する方式
  • 文章理解が得意
  • BERTシリーズが代表例

Encoder-Decoder型

  • 入力文章を理解して、出力文章を生成する方式
  • 翻訳や要約が得意
  • T5シリーズが代表例

このように、学習方法の違いが、各LLMの得意分野を決定しています。

GPTシリーズの特徴

次に、最も有名なGPTシリーズについて説明します。

GPTの基本的な仕組み

GPT(Generative Pre-trained Transformer)は、文章を左から右へと順番に生成する自己回帰型のLLM です。人間が文章を書くときのように、前の単語を参考にして次の単語を決めていきます。

たとえば、「今日は良い天気なので」という文章があれば、GPTは過去の学習から「散歩に行きたい」「外出したい」「気分が良い」などの適切な続きを予測します。

GPTの進化の歴史

GPT-1(2018年)

  • パラメータ数:1億1700万個
  • 初期の概念実証モデル
  • 基本的な文章生成能力を実現

GPT-2(2019年)

  • パラメータ数:15億個
  • 高品質な文章生成を実現
  • 「危険すぎる」として当初は公開を控えられた

GPT-3(2020年)

  • パラメータ数:1750億個
  • 人間レベルの文章生成能力
  • 多様なタスクに対応可能

GPT-4(2023年)

  • パラメータ数:非公開(推定1兆個以上)
  • 画像理解能力を追加
  • より高度な推論能力を実現

GPTの得意分野と活用例

GPTは 創造的な文章生成 に優れています:

たとえば

  • 創作活動: 小説、詩、脚本の執筆
  • ビジネス文書: 企画書、報告書、メール作成
  • 教育支援: 説明文、問題文の作成
  • コード生成: プログラミングコードの自動生成
  • 対話: 自然な会話の維持

要するに、GPTは「何もないところから新しい文章を作り出す」ことが最も得意なLLMなのです。

BERTシリーズの特徴

次に、文章理解に特化したBERTシリーズについて解説します。

BERTの基本的な仕組み

BERT(Bidirectional Encoder Representations from Transformers)は、文章を双方向から理解するマスク型のLLM です。文章の一部を隠して、前後の文脈から隠された部分を予測する学習を行います。

たとえば、「今日は[MASK]天気です」という文章から、前後の文脈を理解して「良い」「悪い」などの適切な単語を予測します。この双方向の理解により、文章の意味をより深く把握できます。

BERTの進化と派生モデル

BERT-Base(2018年)

  • パラメータ数:1億1000万個
  • 基本的な文章理解能力を実現
  • 多くのNLPタスクで高性能を達成

RoBERTa(2019年)

  • BERTの学習方法を改良
  • より長時間・大規模データで学習
  • BERTを上回る性能を実現

ALBERT(2019年)

  • パラメータ共有により軽量化
  • 少ないメモリで高性能を実現
  • 実用的なデプロイメントが可能

日本語BERT(2019年)

  • 日本語に特化した学習
  • 日本語NLPタスクで高性能
  • 国内でのAI開発で広く活用

BERTの得意分野と活用例

BERTは 文章の理解と分析 に優れています:

たとえば

  • 感情分析: 「この商品レビューは好意的か否定的か」
  • 文章分類: 「このメールはスパムかどうか」
  • 質問応答: 「この文章から答えを抽出する」
  • 固有表現認識: 「この文章に含まれる人名や地名の特定」
  • 文章類似度: 「2つの文章がどれだけ似ているか」

要するに、BERTは「既存の文章を深く理解して分析する」ことが最も得意なLLMなのです。

T5シリーズの特徴

最後に、統合型LLMの代表であるT5について解説します。

T5の基本的な仕組み

T5(Text-to-Text Transfer Transformer)は、すべてのタスクを「テキスト入力→テキスト出力」の形式で統一したLLM です。翻訳、要約、分類など、様々なタスクを一つのモデルで処理できます。

たとえば、翻訳タスクでは「translate English to Japanese: Hello」、要約タスクでは「summarize: 長い文章」という形式で入力を与えることで、それぞれのタスクに対応した出力を生成します。

T5の特徴と革新性

統一されたフレームワーク

  • あらゆるNLPタスクを同じ形式で処理
  • 新しいタスクへの適応が容易
  • 一つのモデルで多様な用途に対応

スケーラビリティ

  • T5-Small(6000万パラメータ)からT5-11B(110億パラメータ)まで
  • 用途に応じてサイズを選択可能
  • 計算リソースに応じた最適化

転移学習の効率性

  • 事前学習済みモデルを様々なタスクに適用
  • 少ないデータで高性能を実現
  • ファインチューニングが容易

T5の得意分野と活用例

T5は 多様なタスクへの適応 に優れています:

たとえば

  • 翻訳: 多言語間の自然な翻訳
  • 要約: 長い文章の要点抽出
  • 質問応答: 文章から答えの生成
  • 感情分析: 文章の感情分類
  • 文章補完: 不完全な文章の完成

要するに、T5は「一つのモデルで様々なタスクを処理できる万能型」のLLMなのです。

使い分けのガイドライン

それぞれのLLMをどのような場面で使い分けるべきかについて説明します。

タスク別の選択指針

創造的な文章生成が必要な場合

  • 選択: GPTシリーズ
  • 理由: 自然で創造的な文章生成に最適化
  • 具体例: ブログ記事執筆、小説創作、対話システム

文章の理解・分析が必要な場合

  • 選択: BERTシリーズ
  • 理由: 深い文章理解と分析に特化
  • 具体例: 感情分析、文書分類、情報抽出

多様なタスクに対応したい場合

  • 選択: T5シリーズ
  • 理由: 一つのモデルで様々なタスクを処理
  • 具体例: 翻訳、要約、質問応答の統合システム

実装の観点からの選択

リソース制約がある場合

  • T5-SmallやDistilBERTなど、軽量版を選択
  • クラウドAPIの利用を検討

日本語処理が中心の場合

  • 日本語に特化したモデルを選択
  • GPT-4、日本語BERT、日本語T5など

リアルタイム処理が必要な場合

  • 推論速度の速いモデルを選択
  • BERTやT5の小型版が適している

このように、用途と制約に応じて適切なLLMを選択することが重要です。

まとめ

GPTは創造的な文章生成、BERTは文章理解・分析、T5は多様なタスクへの適応にそれぞれ特化した異なる特徴を持つLLMです。それぞれの設計思想と得意分野を理解して、目的に応じて適切なモデルを選択することで、AIの能力を最大限に活用できます。

要するに、LLMの世界は「万能な一つのモデル」ではなく、「それぞれの分野に特化した専門家たち」の集合体なのです。

次回の記事では、なぜChatGPTが人間らしい回答をできるようになったのか、その背景にある「人間フィードバック強化学習(RLHF)」という技術について詳しく解説していきます。