LLMの種類と特徴:GPT、BERT、T5の違い
「ChatGPTは知っているけど、BERTやT5って何?」「どのLLMを使えば自分の目的に合うの?」そんな疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。実は、LLMには様々な種類があり、それぞれ異なる特徴と得意分野を持っています。この記事では、代表的なLLMの特徴と使い分けについて、具体例とともに分かりやすく解説します。
LLMの分類と基本的な違い
はじめに、LLMがどのように分類されるのかについて紹介します。
■設計思想による分類
LLMは 設計思想 によって大きく3つのタイプに分類されます:
1. 文章生成型(Generative)
- 目的: 新しい文章を作り出すことに特化
- 代表例: GPTシリーズ(ChatGPT)
- 得意分野: 創作、対話、文章作成
2. 文章理解型(Discriminative)
- 目的: 既存の文章を理解・分析することに特化
- 代表例: BERTシリーズ
- 得意分野: 文章分類、感情分析、質問応答
3. 統合型(Unified)
- 目的: 生成と理解の両方を一つのモデルで実現
- 代表例: T5、GLM
- 得意分野: 翻訳、要約、多様なタスク
たとえば、「小説を書いて」というタスクは文章生成型が得意で、「この文章の感情を分析して」というタスクは文章理解型が得意です。
要するに、LLMは「何を重視して設計されたか」によって、異なる能力を持っているのです。
■学習方法による違い
LLMは 学習方法 によっても特徴が異なります:
自己回帰型(Autoregressive)
- 前の単語から次の単語を予測する方式
- 文章生成が得意
- GPTシリーズが代表例
マスク型(Masked)
- 文章の一部を隠して、その部分を予測する方式
- 文章理解が得意
- BERTシリーズが代表例
Encoder-Decoder型
- 入力文章を理解して、出力文章を生成する方式
- 翻訳や要約が得意
- T5シリーズが代表例
このように、学習方法の違いが、各LLMの得意分野を決定しています。
GPTシリーズの特徴
次に、最も有名なGPTシリーズについて説明します。
■GPTの基本的な仕組み
GPT(Generative Pre-trained Transformer)は、文章を左から右へと順番に生成する自己回帰型のLLM です。人間が文章を書くときのように、前の単語を参考にして次の単語を決めていきます。
たとえば、「今日は良い天気なので」という文章があれば、GPTは過去の学習から「散歩に行きたい」「外出したい」「気分が良い」などの適切な続きを予測します。
■GPTの進化の歴史
GPT-1(2018年)
- パラメータ数:1億1700万個
- 初期の概念実証モデル
- 基本的な文章生成能力を実現
GPT-2(2019年)
- パラメータ数:15億個
- 高品質な文章生成を実現
- 「危険すぎる」として当初は公開を控えられた
GPT-3(2020年)
- パラメータ数:1750億個
- 人間レベルの文章生成能力
- 多様なタスクに対応可能
GPT-4(2023年)
- パラメータ数:非公開(推定1兆個以上)
- 画像理解能力を追加
- より高度な推論能力を実現
■GPTの得意分野と活用例
GPTは 創造的な文章生成 に優れています:
たとえば:
- 創作活動: 小説、詩、脚本の執筆
- ビジネス文書: 企画書、報告書、メール作成
- 教育支援: 説明文、問題文の作成
- コード生成: プログラミングコードの自動生成
- 対話: 自然な会話の維持
要するに、GPTは「何もないところから新しい文章を作り出す」ことが最も得意なLLMなのです。
BERTシリーズの特徴
次に、文章理解に特化したBERTシリーズについて解説します。
■BERTの基本的な仕組み
BERT(Bidirectional Encoder Representations from Transformers)は、文章を双方向から理解するマスク型のLLM です。文章の一部を隠して、前後の文脈から隠された部分を予測する学習を行います。
たとえば、「今日は[MASK]天気です」という文章から、前後の文脈を理解して「良い」「悪い」などの適切な単語を予測します。この双方向の理解により、文章の意味をより深く把握できます。
■BERTの進化と派生モデル
BERT-Base(2018年)
- パラメータ数:1億1000万個
- 基本的な文章理解能力を実現
- 多くのNLPタスクで高性能を達成
RoBERTa(2019年)
- BERTの学習方法を改良
- より長時間・大規模データで学習
- BERTを上回る性能を実現
ALBERT(2019年)
- パラメータ共有により軽量化
- 少ないメモリで高性能を実現
- 実用的なデプロイメントが可能
日本語BERT(2019年)
- 日本語に特化した学習
- 日本語NLPタスクで高性能
- 国内でのAI開発で広く活用
■BERTの得意分野と活用例
BERTは 文章の理解と分析 に優れています:
たとえば:
- 感情分析: 「この商品レビューは好意的か否定的か」
- 文章分類: 「このメールはスパムかどうか」
- 質問応答: 「この文章から答えを抽出する」
- 固有表現認識: 「この文章に含まれる人名や地名の特定」
- 文章類似度: 「2つの文章がどれだけ似ているか」
要するに、BERTは「既存の文章を深く理解して分析する」ことが最も得意なLLMなのです。
T5シリーズの特徴
最後に、統合型LLMの代表であるT5について解説します。
■T5の基本的な仕組み
T5(Text-to-Text Transfer Transformer)は、すべてのタスクを「テキスト入力→テキスト出力」の形式で統一したLLM です。翻訳、要約、分類など、様々なタスクを一つのモデルで処理できます。
たとえば、翻訳タスクでは「translate English to Japanese: Hello」、要約タスクでは「summarize: 長い文章」という形式で入力を与えることで、それぞれのタスクに対応した出力を生成します。
■T5の特徴と革新性
統一されたフレームワーク
- あらゆるNLPタスクを同じ形式で処理
- 新しいタスクへの適応が容易
- 一つのモデルで多様な用途に対応
スケーラビリティ
- T5-Small(6000万パラメータ)からT5-11B(110億パラメータ)まで
- 用途に応じてサイズを選択可能
- 計算リソースに応じた最適化
転移学習の効率性
- 事前学習済みモデルを様々なタスクに適用
- 少ないデータで高性能を実現
- ファインチューニングが容易
■T5の得意分野と活用例
T5は 多様なタスクへの適応 に優れています:
たとえば:
- 翻訳: 多言語間の自然な翻訳
- 要約: 長い文章の要点抽出
- 質問応答: 文章から答えの生成
- 感情分析: 文章の感情分類
- 文章補完: 不完全な文章の完成
要するに、T5は「一つのモデルで様々なタスクを処理できる万能型」のLLMなのです。
使い分けのガイドライン
それぞれのLLMをどのような場面で使い分けるべきかについて説明します。
■タスク別の選択指針
創造的な文章生成が必要な場合
- 選択: GPTシリーズ
- 理由: 自然で創造的な文章生成に最適化
- 具体例: ブログ記事執筆、小説創作、対話システム
文章の理解・分析が必要な場合
- 選択: BERTシリーズ
- 理由: 深い文章理解と分析に特化
- 具体例: 感情分析、文書分類、情報抽出
多様なタスクに対応したい場合
- 選択: T5シリーズ
- 理由: 一つのモデルで様々なタスクを処理
- 具体例: 翻訳、要約、質問応答の統合システム
■実装の観点からの選択
リソース制約がある場合
- T5-SmallやDistilBERTなど、軽量版を選択
- クラウドAPIの利用を検討
日本語処理が中心の場合
- 日本語に特化したモデルを選択
- GPT-4、日本語BERT、日本語T5など
リアルタイム処理が必要な場合
- 推論速度の速いモデルを選択
- BERTやT5の小型版が適している
このように、用途と制約に応じて適切なLLMを選択することが重要です。
まとめ
GPTは創造的な文章生成、BERTは文章理解・分析、T5は多様なタスクへの適応にそれぞれ特化した異なる特徴を持つLLMです。それぞれの設計思想と得意分野を理解して、目的に応じて適切なモデルを選択することで、AIの能力を最大限に活用できます。
要するに、LLMの世界は「万能な一つのモデル」ではなく、「それぞれの分野に特化した専門家たち」の集合体なのです。
次回の記事では、なぜChatGPTが人間らしい回答をできるようになったのか、その背景にある「人間フィードバック強化学習(RLHF)」という技術について詳しく解説していきます。