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LLMの歴史:検索エンジンから対話AIまで

2025年7月8日
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「なぜLLMのようなAIが生まれたのか?」「どのような技術の積み重ねがあったのか?」そんな疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。実は、LLMの誕生には長い技術的な歴史があります。この記事では、インターネット検索から始まり、現在のChatGPTまでの技術進化を、身近な例を使って分かりやすく解説します。

インターネット検索の時代

はじめに、LLMの前身ともいえる検索エンジン技術について紹介します。

初期の検索エンジン

1990年代後半、インターネットが普及し始めた頃、検索エンジン という技術が登場しました。これは、膨大なWebページの中から、ユーザーが求める情報を見つけ出すシステムです。

たとえば

  • Yahoo! (1994年): 人間がWebサイトを分類してディレクトリを作成
  • Google (1998年): ページの関連性を自動的に計算して、最適な検索結果を表示

初期の検索エンジンは、「キーワードマッチング」という単純な仕組みでした。ユーザーが「猫」と検索すると、「猫」という単語が含まれるページを探す、という方法です。

検索エンジンの進化

検索エンジンは徐々に進化し、意味的な検索 ができるようになりました。これは、単なる単語の一致ではなく、「ユーザーが何を知りたがっているのか」を理解しようとする技術です。

たとえば

  • 「東京の天気」と検索すると、天気予報サイトが上位に表示される
  • 「レシピ」と検索すると、料理サイトが優先的に表示される

要するに、検索エンジンは「文字列の検索」から「意味の理解」へと進化していったのです。

機械翻訳の発展

次に、LLMの重要な基盤となった機械翻訳技術について説明します。

初期の機械翻訳

1950年代から機械翻訳の研究が始まりました。初期の機械翻訳は ルールベース翻訳 と呼ばれ、人間が「この文法の場合はこう翻訳する」というルールを一つずつ作成する方法でした。

たとえば

  • 「I am a student」→「私は学生です」
  • 「He is a teacher」→「彼は先生です」

しかし、この方法では例外的な表現や、文化的な違いを含む翻訳が困難でした。

統計的機械翻訳

2000年代に入ると、統計的機械翻訳 が登場しました。これは、大量の対訳データ(同じ内容の異なる言語の文章)を分析して、翻訳パターンを自動的に学習する方法です。

たとえば

  • 日本語と英語の同じ内容の文章を100万組用意
  • コンピュータが「この日本語表現は、英語ではこう表現される」というパターンを学習
  • 新しい文章を翻訳する際に、学習したパターンを応用

要するに、人間がルールを教えるのではなく、データからコンピュータが自分で翻訳方法を学習するようになったのです。

音声認識技術の発展

次に、音声認識技術の発展について解説します。

初期の音声認識

1960年代から音声認識の研究が始まりました。初期の音声認識は、限定的な単語 しか認識できませんでした。

たとえば

  • 「はい」「いいえ」「スタート」「ストップ」などの決まった単語だけ
  • 特定の人の声だけに対応
  • 静かな環境でないと認識できない

連続音声認識への進化

1980年代になると、連続音声認識 が可能になりました。これは、単語と単語の間に区切りがなくても、自然な話し方を理解できる技術です。

たとえば

  • 「今日は良い天気ですね」という文章を、区切りなく自然に話しても理解できる
  • 複数の話者(異なる人の声)に対応できる

音声アシスタントの登場

2010年代には、音声アシスタント が実用化されました。これは、音声認識と自然言語処理を組み合わせた技術です。

たとえば

  • Siri (2011年): 「明日の天気を教えて」と話しかけると、天気予報を答える
  • Alexa (2014年): 「音楽をかけて」と言うと、音楽を再生する
  • Google Assistant (2016年): 「近くのレストランを探して」と言うと、検索結果を教える

これらの技術は、LLMの前身として重要な役割を果たしました。音声を理解し、適切な回答を生成する技術は、現在のLLMの基盤となっています。

自然言語処理の革命

次に、LLMの直接的な前身となった自然言語処理技術について説明します。

初期の自然言語処理

1980年代から1990年代の自然言語処理は、専門家システム という考え方が主流でした。これは、人間の専門家が持つ知識を、コンピュータに一つずつ教え込む方法です。

たとえば

  • 医療診断システム: 医師が「症状Aがあれば病気Bの可能性が高い」というルールを入力
  • 法律相談システム: 弁護士が「条件Cを満たせば法律Dが適用される」というルールを入力

しかし、この方法では膨大な数のルールが必要で、メンテナンスが困難でした。

機械学習の導入

2000年代に入ると、機械学習 が自然言語処理に導入されました。これは、大量のデータからコンピュータが自動的にパターンを学習する技術です。

たとえば

  • スパムメール検出: 何万通ものメールを分析して、スパムメールの特徴を学習
  • 感情分析: 何千ものレビューを分析して、「良い評価」「悪い評価」を判別する方法を学習

要するに、人間がルールを教えるのではなく、データからコンピュータが自分で言語の特徴を学習するようになったのです。

GPTの登場と進化

最後に、現在のLLMの直接的な起源となったGPTシリーズについて解説します。

GPT-1(2018年)

GPT-1 は、OpenAIが2018年に発表した最初のGPTモデルです。これは、Transformer という革新的な技術を使って、大量のテキストデータから言語のパターンを学習しました。

特徴

  • 約1.2億個のパラメータ
  • 文章の続きを予測する能力
  • 様々な言語タスクに応用可能

たとえば、「今日は良い天気なので」という文章を与えると、「散歩に行きたいです」のような自然な続きを生成できました。

GPT-2(2019年)

GPT-2 は、GPT-1の10倍以上の規模に拡張されたモデルです。約15億個のパラメータを持ち、より高品質な文章生成が可能になりました。

特徴

  • より長い文章の生成
  • 多様なトピックへの対応
  • 初期の「危険性」の議論

実際、GPT-2は当初「悪用される可能性がある」として、完全版が公開されませんでした。それほど高品質な文章を生成できたのです。

GPT-3(2020年)

GPT-3 は、約1750億個のパラメータを持つ巨大なモデルです。これは、従来のAIシステムとは比較にならないほど自然で人間らしい文章を生成できました。

特徴

  • 人間と区別がつかないほど自然な文章
  • プログラミングコードの生成
  • 多様な専門分野での応用

たとえば、「小説を書いて」と言うと、プロの作家が書いたような物語を生成できるようになりました。

ChatGPT(2022年)

ChatGPT は、GPT-3を対話に特化させた製品です。人間からのフィードバックを使って、より自然で有用な会話ができるように改良されました。

特徴

  • 自然な対話能力
  • 指示に従う能力
  • 安全性の向上

たとえば、「メールを書いて」「プログラムを作って」「悩みを聞いて」といった様々な要求に、まるで人間のアシスタントのように対応できるようになりました。

BERTと理解系AI

GPTとは異なるアプローチで発展したBERTについても説明します。

BERTの登場(2018年)

BERT は、Googleが開発した「文章理解」に特化したAIモデルです。GPTが「文章生成」に優れているのに対し、BERTは「文章の意味理解」に優れています。

特徴

  • 文章の前後の文脈を同時に理解
  • 質問応答システムに最適
  • 検索エンジンの精度向上

たとえば、「太郎は花子にプレゼントを渡した」という文章で、「プレゼントを渡したのは誰?」という質問に対して、正確に「太郎」と答えることができます。

GPTとBERTの違い

GPTBERT は、それぞれ異なる目的で設計されています:

  • GPT: 文章の「生成」が得意(クリエイティブ、対話)
  • BERT: 文章の「理解」が得意(検索、分類、質問応答)

要するに、GPTは「話し上手」、BERTは「聞き上手」と考えるとわかりやすいでしょう。

まとめ

LLMの歴史は、検索エンジンから始まり、機械翻訳、音声認識、自然言語処理の発展を経て、現在のChatGPTまで続く長い技術的進化の結果です。特に、ルールベースの時代から機械学習の時代へ、そして大規模なデータと計算力を活用する現在のLLMまで、コンピュータが言語を扱う方法は劇的に変化しました。

要するに、LLMは「突然現れた魔法の技術」ではなく、何十年にもわたる技術的積み重ねの結果として生まれた、人類の知恵の結晶なのです。

次回の記事では、LLMがどのように文章を数字に変換して処理しているのか、「トークン化」という基本的な仕組みについて詳しく解説していきます。